あかでやみぬる月の光を

本との出会いを徒然なるままに綴る。

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漢詩

漢詩

詩型一覧表
詩型001


平仄式一覧表
詩001



詩002


詩003


詩004

蝉しぐれ

蝉しぐれ


 原作:藤沢周平。「蝉しぐれ」長編時代小説をもとにした2005年10月1日公開の日本映画。


蝉しぐれ001


 江戸時代。東北の小藩・海坂藩(作者創造による架空の藩。庄内藩がモデルとされる)普請組の下級藩士・牧助左衛門(緒形拳)の15歳になる息子・牧文四郎(子役:石田卓也)は、ある夏の日の朝、家の裏の小川で洗濯をしていて指先を蛇に咬まれた隣家のふく(子役:佐津川愛美)の指先を吸ってやった。
 この時の出来事は文四郎とふくにとって忘れられない思い出となる出来事だった。

蝉しぐれ002



 文四郎の日課は、ひとつ年上の小和田逸平(子役:久野雅弘)や同い年の島崎与之助(子役:岩渕幸弘)の親友といつも一緒に剣術と学問を習っていた。後に学に秀でた与之助は江戸に上って学問を修めるが三人の友情は終生変ることはなかった。
 そんな中で、文四郎とふくが互いに意識するようになったのは頼まれて夜祭に連れて行ったころだったろうか……。
 文四郎は、平凡な日常がおだやかに過ぎてゆくなかで少しずつ大人になっていった。

蝉しぐれ015





 しかし、不幸は突然のように文四郎の一家を襲った。夏の暑い盛り、藩主のお世継ぎを巡る政争が表面化し助座衛門は拘束された。抗争に加わった藩士は反逆者として死罪と決まった。
 文四郎は一度、処刑前の父に対面することが出来た。

 助左衛門は家族を心配する言葉に続けて
「わしは恥ずべき事をしたわけではない……。私の欲ではなく、義のためにやったことだ……。文四郎は父を恥じてはならん。そのことは胸にしまっておけ。」

 父の遺骸を荷車を曳いて文四郎は引き取りに行った。重い荷車を曳きながらの山道は文四郎一人の力ではきつかった。
 坂道を一人荷車を持て余し、どうすることも出来ずにあえいでいるところを、坂の上から一人の少女が駆け寄ってきた隣家のふくだった。ふくは遺骸に手を合わせると溢れ出す涙をこらえ荷車を押しはじめた。
蝉しぐれ004
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 山間に日が落ちかかり、蝉しぐれが……。 荒れ狂う夏を鎮めるかのように鳴いていた。

 それから文四郎の境遇は一変し、罪人の子として古びた長屋に母・登世(原田美枝子)とひっそりと暮らすようになっていた。
 心配した逸平が古屋を探して文四郎を訪ねてきた。逸平によると父・助座衛門は藩内の抗争に破れた派閥に属しており連座させられたというのだった。逸平は切腹を決定したのは主席家老・里村左内とされているが仇を討つなど考えるなと釘を刺す。
 父の戒めを守り剣術の稽古に励む文四郎。そんな折、今度はふくが江戸屋敷の奥に勤めることになった。出立の前日息せき切って文四郎に別れを告げに家を訪ねてくるが文四郎はあいにくの留守だった。稽古から帰った文四郎は急いで後を追いかけるが、途中で邪魔が入り二人はとうとう会うことが叶わなかった。







 それから数年、立派な青年へと成長した文四郎(市川染五郎)は、試合で犬飼兵馬(緒形幹太)に惜しくも負けてしまう。試合後に剣の師である石栗弥左衛門(利重剛)は文四郎に秘剣を披瀝し、狂気に惑わされず心眼で相手を看るように諭す。

蝉しぐれ007


 剣術に打ち込む文四郎のもとに、父の仇であるはずの里村左内(加藤武)に呼び出され、旧録に戻し郡奉行支配をに命じられた。

 出仕し、郷村を周りながら田畑の管理の仕事をする文四郎のもとに与之助(今田耕司)が訪ねて来ていた。それだけではない、江戸での修行を終えて藩校の教授として帰ってきた親友・与野助(ふかわりょう)も一緒だった。
 久しぶりに旧交を温めあう三人は、城下の繁華街で酒を酌み交わす。その中で与野助は藩主の側室となった”ふく”お福様(木村佳乃)が子を身篭ったものの、愛妾おふねの差し金で世継ぎ問題に巻き込まれて流産し、今また再び藩主の子を懐妊し、今度は密かに国許に帰り別邸の欅御殿に匿われているらしいことを話した。


 再び里村から呼び出された文四郎は、あろう事か里村から直々にお福の子を攫って来いとの命令を受ける。明らかな罠に逸平、与之助とともに前後策を講じて、お福の子を受け取ったら横山家老屋敷に駆け込み洗いざらい事情を話すことに決める。

 文四郎は逸平や与之助の助成を借り欅御殿に向かうと、お福に事情を説明しつかの間の昔話をする。しかし、感傷に浸っている暇もなく欅御殿に里村の手の者たちが押し入ってきた。文四郎は、お福・親子を金井村の藤次郎屋敷に避難させるように指示すると、文四郎と与野助は襲い来る刺客たちを相手に二人で奮戦しかろうじて撃退する。
 しかし、最後に残った刺客・犬飼兵馬が文四郎の前に現れ立会いを所望する。文四郎は満身創痍の体を立ち上がらせると秘剣村雨を使い一刀のもとに兵馬を斃すのだった。

蝉しぐれ008




 刺客を撃退した文四郎は藤次郎屋敷でお福と合流するが、横山家老の屋敷まで城下に通じる道は里村の手のもので固められていた。
 藤次郎(田村亮)の提案で川を下る船で城下に入ることになった文四郎とお福・親子は、与野助の機転により無事に警戒をすり抜け陸に上がると屋敷までの通りを急ぎ歩く。
 ふと、お福は文四郎の着物を掴むと昔の思いを打ち明けるように抱き合おうとするが、突然のお子の泣き声にもう互いの間には超え難い物があることを感じるのだった。
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 二人は無事に横山家老の屋敷に辿り付き助けを求めた。お福が横山家老の元で無事に保護されるのを見届けると文四郎は自宅に戻ろうとするが帰り間際、家老・横山又助(中村又蔵)にくれぐれも軽挙を戒められるのだった。

 しかし、内心の憤りを隠せない文四郎はその足で里村の屋敷を訪れると、里村の前に進み無益な争いで多くのものが死んだことを嘆いた。藩のためだと嘯く里村に、死んでいった者たちの気持ちを代弁するように里村の文机を真っ二つに斬りつけて一矢報いるのであった。



蝉しぐれ010
 それから数十年の月日が流れ。前藩主の一周忌を前にお福は出家を決意した。二人は今生の未練として一度だけの再会を果たした。文四郎とふくは昔に戻ったように埋められない時を埋めるように語り合う。


蝉しぐれ013
蝉しぐれ011


「文四郎さんのお子が私の子で、私の子供が文四郎さんのお子であるように、道はなかったのでしょうか……。」

 そこで初めて自らの気持ちを伝え合うも、もはや結ばれる筈もなく再び別れ行くのだった。


蝉しぐれ014


 その日も、蝉しぐれだけが……。








キャスト
牧文四郎 : 市川染五郎(七代目)
ふく : 木村佳乃
牧助左衛門 : 緒形拳
牧登世 : 原田美枝子
島崎与之助 : 今田耕司
小和田逸平 : ふかわりょう
小柳甚兵衛 : 小倉久寛
小柳ます : 根本りつ子
矢田作之丞 : 山下徹大
石栗弥左衛門 : 利重剛
相羽惣六 : 矢島健一
おとら : 渡辺えり子
矢田淑江 : 原沙知絵
尾形久万喜 : 麿赤兒
藤次郎 : 田村亮
権六 : 三谷昇
坂本:深水三章 
関口晋助 : 大滝秀治
青木孫蔵 : 大地康雄
犬飼兵馬 : 緒形幹太
里村左内 : 加藤武
太吉 : 宇賀那健一
平太 : 岡野幸裕
文四郎・子役 : 石田卓也
小柳ふく・子役 : 佐津川愛美
逸平・子役 : 久野雅弘
与之助・子役 : 岩渕幸弘
磯谷主計 : 柄本明
相羽惣六:矢島健一
村上:山田明郷
佐竹:佐藤二朗
伊予:藤貴子
小助:蛭子能収
横山又助:中村又蔵
坂本:深水三章
北村:田中要次
木戸:不破万作
おきみ:中村優子
上杉:西凛太朗
竹井:矢吹蓮
真下:高杉勇次
井関:小林太樹
三矢:夏坂祐輝
中江:田中輝彦
田門:谷口公一
桜井:竹嶋康成
江森:山地健仁
おみち:森脇英理子
おたま:福澄美緒
お澄:岡本結花
お松:もたい陽子
いせ:山本英子
おはん:森田友美恵
くに:坂本麻紀子
山根:高橋研
平太:岡野幸裕
多吉:宇賀那健一
弥助:三木秀甫
次助:新谷祐二
小田島隆
岡山和之
松原誠
大島光幸
山本哲也
佐々みな美
紺谷みえこ
芦名星
小林伊織




スタッフ
原作:藤沢周平(文藝春秋刊)
監督・脚本: 黒土三男
製作:俣木盾夫
製作統括:森隆一 島谷能成 早河 洋
エグゼクティブプロデューサー:遠谷信幸
プロデューサー:中沢敏明 宇生雅明
共同プロデューサー:柴田一成 田中渉
協力プロデューサー:青木真樹 瀬田一彦
ラインプロデューサー:吉田浩二
音楽:岩代太郎
美術監督:櫻木晶
撮影:釘宮慎治
照明:吉角荘介
録音:橋本泰夫
編集:奥田浩史
助監督:森宏治
製作委員会:電通、セディックインターナショナル、ケイセブン、ジェネオンエンタテインメント、東宝、テレビ朝日、朝日放送、名古屋テレビ放送、朝日新聞、東京都ASA連合会
イメージソング:一青窈 「かざぐるま」(コロムビアミュージックエンタテインメント)




 映画に先立ち『NHK金曜時代劇』として放映されたTV版に遅れること2年。構想から15年かけて完成された映画『蝉しぐれ』は、黒土三男監督の思いがすべて詰め篭められた作品です。

 原作者:藤沢周平氏の許可を得るのに3年を費やし、山形県庄内地方のほかにも、京都、姫路、近江八幡、長野、新潟、千葉の各ロケ地を巡って撮影された風景の数々は、山形県羽黒町に組まれた1万坪のオープンセットと相まって、映像の中にはリアルに作り出した海坂藩がそこに確かにあります。



 夏祭りで、ふくがそっと文四郎の袂を摑む。そんな何気ないところが後から活きて来る演出の一つで、このときはただ寄り添おうとするかのようで微笑ましもあり。

 登場する時間は短いですが、亡き名優・緒方拳の「父を恥じてはならん」と言う父と子の結びつきを伝えるに十分なシーンにも名優の圧倒的な存在感をして、最後まで文四郎の歩む道に重きを加えます。


 そして、最後に撮影されたとされる。少年の文四郎(石田卓也)が父・助左衛門の遺体を載せた荷車を牽くシーンは大人でも重くチョットやソットでは動き出す代物ではないそうです。その重い荷車を文四郎役の石田卓也さんと、ふく役の佐津川愛美さんが、文字通り二人で心を合せて矢場の坂を引揚げる渾身のシーンには演技でも演出でもない、映画の神様が居るならば2人の心が自然と紡ぎだした屈指の名シーンです。




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山 桜

山 桜


 原作:藤沢周平。「山桜」短編時代小説(新潮社文庫:短編集「時雨みち」に収録)をもとにした2008年公開の日本映画。

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 江戸時代。東北の小藩・海坂藩の下士の娘・野江(田中麗奈)は、若くして前の夫に病気で先立たれ。磯村庄座衛門(千葉哲也)と二度目の結婚をしていた。望まれて磯村の家に入ったものの、夫の庄座衛門と舅の左次衛門(高橋長英)は武士でありながら蓄財に勤しみ、公に隠れて貸し金に励んでいた。姑の富代(永島暎子)からは出戻りの嫁と蔑まされていたが、二度の失敗は許されないと心に決めて、野江は嫁として懸命に耐える日々を過ごしていた。


 ある日、野江は叔母の命日の墓参りに一人で山間の寺に詣でていた。帰り道に薄紅色の一本の山桜の美しさに惹かれ一枝手折ろうとするものの花に手が届かずに困っているところへ、一人の武士が声をかけ横からするりと手を差し伸べて山桜の枝を手折ると野江に差し出した。
 男は、野江が磯村に嫁ぐ前に縁談を申し込んでいた剣術の名士として誉れ高い手塚弥一郎(東山紀之)であった。密かに思っていてくれていたとの話だったが、野江は剣術の名人は怖い人と思い込み断っていたのだった。しかし、会話をしてみると手塚は野江が思っていたような人とはまるで正反対の、折り目正しく心優しい人であることが分かる。

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 弥一郎が立ち去り際。
 ――今はお幸せでござろうな
 と言う言葉に、野江は「はい」と答えるのが精一杯であった。
 ――さようか。案じておったが、それは重畳。 
 と、弥一郎は野江を気遣う言葉を残しその場を去っていった。

 山桜が引き合わせた二人の偶然の出会いであったが、ずっと自分を気遣ってくれている人がいただけで野江の胸にぬくもりが広がるのであった。
 しかし、野江が磯村の家に帰ると、舅の左次衛門が相変わらず厳しい貸し金の取立てに忙しく。姑の富代からも出戻りの嫁と辛く当たられる旧態と変らぬ日々が続くのであった。

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 そんなある日、弥一郎は農政を我が物とし私腹を肥やす諏訪平右衛門(村井国夫)に対して登城途中で刀を抜き、諏訪の従者六人を軽く当身で一蹴すると難なく平右衛門を斬り捨て、そのまま弥一郎は友人二人に付き添われて大目付に出頭してしまった。
 毎年の長雨で飢饉が続き困窮する農民を虐げ続ける諏訪の政策に対して、これまで公に批判するものはいなかったが、藩内では諏訪の腐敗を大腫れ物と揶揄し不正を糺す声も大きかった。
 そんな中で、弥一郎は我が身を省みることなく、農民を虐げた財で私服を肥やす諏訪に刃を振るったのだった。

 弥一郎を侮蔑し嘲弄する夫に逆上した野江は、思わず手にした夫の羽織を打ち捨てたことで、姑からこの家に貴女の場所はないと離縁を言い渡される。


 弥一郎には、即刻切腹を言い渡されるかと思ったが、擁護する声も大きく藩主が帰国するまで裁断を待つこととなった。 野江は獄中の弥一郎の身を案じお百度参りを重ねる。そして意を決して、再び春になると野江は山桜の枝を持って手塚の家を訪れる。家で一人、息子の身を安んじて待ち続ける弥一郎の母・志津(富司純子)に迎えられ。
 ――いつかあなたが、こうしてこの家を訪ねてみえられるのではないかと、心待ちにしておりました。さあ、どうぞお上がりください。
 野江は、志津に予想もしなかった言葉をかけられ、手塚の母・志津とともに弥一郎の帰りを待ち続けるのであった。


――それは、幸せへのまわり道。


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キャスト
磯村野江 - 田中麗奈
手塚弥一郎 - 東山紀之
浦井七左衛門 - 篠田三郎
浦井瑞江 - 檀ふみ
手塚志津 - 富司純子
浦井新之助 - 北条隆博
浦井勢津 - 南沢奈央
磯村左次衛門 - 高橋長英
磯村富代 - 永島暎子
磯村庄左衛門 - 千葉哲也
諏訪平右衛門 - 村井国夫
保科忠右衛門 - 並樹史朗
堀井甚兵衛 - 石原和海
治 平 - 松澤仁晶
さ よ - 村尾青空
源 吉 - 樋浦勉
肴 屋 - 鬼界浩巳
住 職 - 江藤漢斉
た か - 藤沢玲花


スタッフ
監督 篠原哲雄
企画 小滝祥平、梅澤道彦、河野聡、鈴木尚
製作 川城和実、遠谷信幸、遠藤義明、亀山慶二
脚本 飯田健三郎、長谷川康夫
原作 藤沢周平
撮影 喜久村徳章
美術 金田克美
照明 長田達也
音楽 四家卯大
主題曲/主題歌 一青窈
録音 武進
編集 奥原好幸
助監督 山田敏久
SFX/VFXプロデューサー 松本肇
その他 大坂和美



 武家という仕来りの中で暮らすがゆえに、良くも悪くもその枠の中で皆が、もがき苦しみ一つの光明を糧として生きている人々。
 磯村の家がもぐりで金貸し業を営むのも、そうした下士のなかでのヒエラルキーが下で、それでも必死になって何かを探そうとしてもがいているようで、たまたまお金に目が眩んでいるだけのようにも見えます。
 対照的に描かれる。野江の実家の浦江や手塚の家では、つつましい中でも立派に暮らして行こうとしています。

 どちらが、どう良いか悪いかではなく、仕来りを重んじる。いわば重箱の中に詰め込まれたような社会で暮らしていく、手を伸ばせば誰かの箸に当たり重箱からはみ出すことも許されない。そういった人たちの本当の性が出ているように思えます。 

 確かに、野江は磯村の家で苦労を重ねましたが、裁縫や畑を覚えられたことなどもありますし。塞翁が馬の例えどおり悪いことばかりではないのでしょう。




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*CommentList

花 の あ と

花 の あ と


 原作:藤沢周平。「花のあと ―以登女お物語― 」の短編時代小説をもとにした2010年公開の日本映画

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 江戸時代。東北の小藩・海坂藩。春の桜の季節。家中の女子どもはお城内に入るのを許され。花の盛りには家中の子女がうちつれて、木の下で持参の重箱を開きにぎやかに物語などをしておおらかに過ごしていた。

 寺井以登(北川恵子)が満開の桜を惜しむように眺めているところに声をかけられたのは、羽賀道場の筆頭の剣士・江口孫四郎(宮尾俊太郎)であった。
 父・寺井甚左衛門(國村隼)に五歳の頃より剣の手ほどきを受けた以登は、羽賀道場の高弟の二人を破るほどの腕前だったが、ちょうど所用で席を外していた孫四郎とは未だ剣を交えたことはなかった。
 わずかに会話を交わしただけの二人であったが、それから孫四郎の誠実な人となりに触れた以登は思いを募らせ、父に孫四郎との手合わせを懇願する。

 そして、孫四郎との試合当日。寺井家の裏庭の稽古場にて以登は孫四郎に竹刀を打ち込むうちに、一人の人間として真剣に試合の相手をする孫四郎にまぎれも無く胸を焦がしている自分がいることに気がつく。その一度の手合わせで以登が感じたものは初めての恋心であったが、家が定めた許婚・片桐才助(甲本雅裕)がいる以登は孫四郎への想いを胸の奥深くに終い込み、江戸に留学している才助の帰りを待ち続けるのであった。

 それから数ヵ月後、江口家(勘定方)の三男・孫四郎は内藤家(奏者番・三百石)の娘・加代(伊藤歩)との婚儀が整い、奏者番見習いとして出仕し懸命に役目を果たしていた。しかし、加代には十七歳年長の御用人・藤井勘解由(市川亀治郎)との密会の噂が耐えなかった。


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 そんなある日、白い雪が降り始めた頃。以登の元に孫四郎が自ら命を絶ったとの報が舞い込んでくる。海坂藩に幕府より普請工事が申し付けられ、江戸への使いの役目に孫四郎が仰せ付かり、それを利用して役目をしくじるように藩の重臣・藤井勘解由により陥れられたのだった。
 以登は孫四郎のあまりにも突然の訃報に不審を抱き、許婚の才助に事の真相を探るように依頼する。勘解由と加代の密通に気付いた孫四郎が手をこまねいている間に先に仕掛けたのだった。
 その卑劣な行為に以登は剣を手に取る。立ち会おうかという才助の申し出を断り、初めて一人の人として真剣に立ち会ってくれた孫四郎との思い出、そして人として義を守り抜くために以登は一人で勘解由と立ち会い、勘解由と助太刀の三人との激闘の末に以登はその想いを果たし終える。

 右腕に傷を負い膝を付いた以登にそっと手を差し伸べたのは才助だった。才助は後の始末を任せるように以登を逃す。勘解由の死と同時に今までの悪行が露見し藤井家は取り潰しになった。

 孫四郎と出逢ってからちょうど一年後。海坂藩に春が訪れ、以登は再び城内の満開の桜の下を歩いていた。風に散る花びらとともに巡り来た春をいつくしむ様に桜を眺める。
 しかし、もう以登にとっての桜の季節は過ぎ去ろうとしていた。これまでにない穏やかな微笑みを浮かべながら、桜の道を行く以登の目には新たな人生が既に映っている。

 以登の直ぐ先にはのんびりと歩く才助の姿が、それに合わせて後ろを歩く以登は紛れもない一つ大人びた「花のあと」であった……。



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キャスト
寺井以登 : 北川景子
片桐才助 : 甲本雅裕
江口孫四郎 : 宮尾俊太郎
郁 : 相築あきこ
武岡津勢 : 佐藤めぐみ
藤井勘解由 : 市川亀治郎
内藤加世 : 伊藤歩
永井宗庵 : 柄本明
寺井甚左衛門 : 國村隼
語り : 藤村志保


スタッフ
監督 中西健二
エグゼクティブプロデューサー 河野聡、上田めぐみ、大芝賢二、町田智子
企画 小滝祥平、梅澤道彦
製作 川城和実、尾越浩文、亀山慶二、遠藤義明
プロデューサー 森谷晁育、芳川透、松井俊之、小久保聡
脚本 長谷川康夫、飯田健三郎
原作 藤沢周平
撮影 喜久村徳章
美術 金田克美
装飾 中山まこと
照明 長田達也
音楽 武部聡志
主題曲/主題歌 一青窈
録音 武進
編集 奥原好幸


映画公式HP: http://hananoato.com/





 映画ならではの様式美がすみずみにまで行き届いており。この作品をきりりと引き締める深い味わいをかもし出しています。
 以登と孫四郎の袋竹刀を使っての試合において、原作では二人とも跣(はだし)となっていますが、ひときわ目立つ足袋の色(以登は白足袋。孫四郎は黒足袋。)により男女の違いを際立たせ。
 茶道の表千家の作法から日常の所作、季節による花入れの椿にいたる。四季折々のすみずみに気配りの行き届いた考証と演出の冴えは映画ならではです。

 主演の北川景子さんは、今回演じるにあたって相当な殺陣の練習をしたとのことですが、その北川景子(以登)と試合する宮尾俊太郎氏が演じる江口孫四郎の殺陣も初めてとは思えない体捌きのキレのよさは見事です。
 また、北川景子演じる孫四郎との試合でみせる形と、勘解由との試合の形を同じにしている辺りも劇中に言うところの剣術・夕雲(せきうん)流なのかなと見ていて大変興味深いです。


 しかし、以登と才助。なにかと二人の間には、家の仕来りや格式の違いなどのそれなりの距離感が感じられます。最初は以登が、才助の無遠慮でがさつな振る舞いを少々嫌っているよう見えます。
 でも、意に染まぬとなれば剣を取ってしまう以登も、居住まいは美しくても行動に粗にして野なところを秘めている。違いは有れども同じようなと言えば同じようなものなのかもしれません。
 存外、大喰らいで少々好色なところの才助の方が、郡代の部屋住みの次男坊という理不尽な辛酸を舐めているだけあって、懐の深さと心根の優しさは人一倍であってお似合いの二人なのかもしれないですね。



 孫四郎に対する、初恋のような淡い静かな思い。微熱にも似たその思いは事件をきっかけに炎となって燃え相手を討ち果たすことになりますが、そうした一つを経ることによって才助のやさしさなどに触れた以登には、もう満開の桜を見ても一年前とは違い宴のあとのように色あせて見えたような感慨だったのでしょうか。
 今が盛りと咲き誇る桜の花道を連れ立って、才助と歩く以登はその後花見をすることもなく。

 それは、まさしく「花のあと」であるかのように……。




公式:映画『花のあと』予告編(ponycanyonチャンネルより。)







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たそがれ清兵衛

たそがれ清兵衛


 原作:藤沢周平。いずれも下級武士の風采の上がらない日常に反して剣を取れば凄腕を披露する短編時代小説。「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」を基に翻案した2002年公開の日本映画


 江戸時代末。海坂藩の下級藩士、井口清兵衛(真田広之)は、妻に先立たれ幼い二人の娘と年老いた母との四人暮らし。認知症ぎみの母と幼い子供二人の世話。労咳で死んだ妻の薬代の借金などで御蔵役の勤めを終えると真っ直ぐに帰宅し家事と内職に勤しみ、日々の暮らしに追われる中で次第に身なりが薄汚れて、同僚たちには”たそがれ清兵衛”とあだ名されて呼ばれるほどだった。

 ある日、清兵衛は親友の飯沼倫之丞(吹越満)と再会する。ふと倫之丞は妹の朋江(宮沢りえ)が、酒乱の夫・甲田豊太郎(大杉漣)に暴力を度々受けていたことで離縁させた旨を清兵衛にうちあけるのだった。

 そんな折に、清兵衛がいつもどおり早々と帰宅すると、そこには若い女性の姿があった。朋江である。機織仕事で退屈だからと清兵衛の家を訪れていたのだった。懐かしそうに昔のことを話す幼馴染の朋江に清兵衛は淡いひと時を過ごすのだった。
 その晩に、飯沼の家に朋江を送り届けた清兵衛は、酒に酔った甲田が離縁させられたことに腹を立てて倫之丞に果し合いを申し込んで押し問答の最中だった。
 清兵衛は、酔って暴れる甲田を取り鎮めると、自分が倫之丞に代わって果し合いの相手を務めると宣言する。そして、翌朝に城下の般若寺裏の河原で相対した二人は、真剣を抜いて斬りかかる甲田に対して清兵衛は棒切れであっさりと倒しのだった。
 この一件は、うすうす城内で噂となりささやかれはじめた。


たそがれ03
 そのこともあってか、朋江は清兵衛の家へ頻繁に通い家事や娘の世話をするようになっていた。清兵衛の家に久しぶりに穏やかな日々が続く。
 そんなある日、海坂藩の藩主が没し、後継者を巡って藩内にただならぬ雰囲気が立ち始める。そこで倫之丞は河原で釣りを装いつつ朋江を清兵衛の下へ嫁がせたいと申し出るが、清兵衛は分不相応だとしてその申し出を丁重に断るのだった。



 藩主が改まり藩の内部では守旧派の交代が始まった。その中に藩随一の一刀流の剣豪・余吾善右衛門(田中泯)がいた。余吾は切腹を命じられたにもかかわらず拒否したばかりか、上意討ちに訪れた服部玄蕃(夏坂祐輝)を返り討ちにし屋敷に立て篭った。
 新たな討手を探していた藩の重役は般若寺裏の決闘で甲田を倒した清兵衛の剣を見込み白羽の矢を立てる。清兵衛は討手の藩命に遁辞を構えるが、家老達はそれを許さず清兵衛の家族を持ち出して厳命するのだった。


たそがれ01
 翌朝、清兵衛は朋江を自宅に呼び身支度の手伝いを頼む。決闘を前に清兵衛は朋江に想いを打ち明ける。
「果し合いに打ち勝ったら井口家に嫁に来てほしい」
 しかし、時すでに遅く朋江は清兵衛に縁談を断られた後、別の縁談を受けていたのだった。



 余吾の屋敷に慎重に入り込んだ清兵衛だったが、そこには屋敷の奥に憔悴した余吾善右衛門が打ちしおれていたのだった。余吾は苦しかった浪人時代を振り返り、労咳で亡くした妻子や藩のために懸命に働いた末に命じられた切腹が理不尽だと漏らす。
 しかし、清兵衛が妻の葬式代のために刀を売ってしまったとうっかり口をすべらると、余吾の目付きが変わり清兵衛に斬りかかるのだった。
 屋敷中を這いずり回るような壮絶な果たし合いに辛勝した清兵衛は満身創痍のまま自宅に戻ると。そこには清兵衛を待っていた娘二人と朋江が出迎えるのだった。
たそがれ04
 ひそかに朋江を思い再会を期して帰った清兵衛と、清兵衛の無事を待ちつづけた朋江の心が重なり合った瞬間だった。

 しかし、朋江を妻に迎えた清兵衛が幸せな暮らしを送ったのは、三年ほどだった。戊辰戦争で賊軍となった海坂藩は官軍と戦い清兵衛は戦火の中であっけなく死んでしまった。




 清兵衛の娘が父の墓参に訪れる。
「たそがれ清兵衛は不運な男だという人もいるが、私はそうは思わない。私たち娘を愛し、美しい朋江さんに愛され、充足した思いで短い人生を過ごしたにちがいない。そんな父を誇りに思う。」 



キャスト
井口清兵衛:真田広之
飯沼朋江:宮沢りえ
余吾善右衛門:田中泯
晩年の以登:岸惠子
井口萱野:伊藤未希
井口以登:橋口恵莉奈
井口きぬ:草村礼子
井口藤左衛門:丹波哲郎
久坂長兵衛:小林稔侍
甲田豊太郎:大杉漣
飯沼倫之丞:吹越満
飯沼八重:深浦加奈子
直太:神戸浩
寺内権兵衛:中村梅雀
堀将監:嵐圭史
大塚七十郎:尾美としのり
藤左衛門の中間:桜井センリ
矢崎:赤塚真人
坂口:佐藤正宏
川並:北山雅康
藩主:中村錦之助
種:水野貴以
服部玄蕃:夏坂祐輝
検分役:前田淳
手代:菅原司
豊太郎の下僕:佐藤亮太
立会い人の男: 谷口公一
立会い人の男:田中輝彦
他、田中世津子、宮島隆子、伊東美紀、高田紗千子、小森麻由、厨孝博、吉川淳史、吉田研二、山崎貴司、尼子信也、石野理央、佐藤則夫


スタッフ
監督 山田洋次
製作:大谷信義(松竹)、萩原敏雄(日本テレビ放送網)、岡素之(住友商事)、宮川智雄(博報堂)、菅徹夫(日本出版販売)、石川富康(衛星劇場)
プロデューサー:中川滋弘、深澤宏、山本一郎
脚本:山田洋次、朝間義隆
脚色:山田洋次、朝間義隆
原作:藤沢周平
撮影:長沼六男
美術:出川三男、西岡善信
装飾:島村篤史
照明:中岡源権
音楽:冨田勲
音楽プロデューサー:小野寺重之
主題曲/主題歌:井上陽水
編集:石井巌
録音:岸田和美
音響効果:帆苅幸雄
MA(音声編集):浅梨なおこ
衣装(デザイン):黒澤和子
衣裳/スタイリスト:松田和夫、湯沢恵美子
製作担当:相場貴和、阿曽芳則、峰順一、斉藤朋彦
助監督:花輪金一
スチール:金田正、鈴木さゆり
特殊造形:原口智生
庄内弁指導:山崎誠助
殺陣:久世浩、夏坂祐輝
製作委員会:小林昂、平井文宏、奥田誠治、山崎喜一朗、田村雄二、吉井伸吾、林正俊、長坂勉、江川友浩、佐藤学、湯浅政一、飯田隆、青木貞茂、中田清、古屋文明、藤沢美枝子、市川賢一、小松賢志、佐野俊広、長谷川一郎、山崎克己、秋元一孝
配給:松竹



 山田洋次の世界観で繰り広げられる時代劇ですので、そのあたり原作との乖離を気になさらないのであれば秀逸な家族のドラマを丁寧に織り込んだ時代劇エンターテインメントとして非常に楽しめる作品です。
 しかし、原作を気にしだすと決して藤沢周平のテイストではないので初期短編集のような暗い世界では決してなく。そこは山田流で紡ぎだした家族の愛を描いた別物の作品と写るでしょう。


 私なりには前者でもあり後者でもあるのですが、作品を細かく解剖してみると照明やカメラを一流スタッフで固めた松竹陣を擁しているので、非常に優秀すぎてわかりにくくなっていますが。
 これは、どうしてもTV版の「男はつらいよ」と筋立ての中身がソックリなモノに仕上がっています。惜しいかな山田洋次は「男はつらいよ」のプロットを当て嵌めてしか撮れない人となっているようで、全てをその世界観に本作を入れ込もうとあちらこちらの藤沢周平短篇作品を切り張りして紡ぎだしているように思えます。
 映画の製作記を見てみても、そもそも藤沢作品ありきなら「竹光始末」で一作作ってしまえばいいところ
 しかしこれでは尺が足りないとか、クライマックスまで物足りなく思えて「たそがれ清兵衛」にたどり着くまでの過程は、始めから家族物のドタバタの寅さんありきの構成を考えていたのではないかと勘ぐりたくもなり。
 たまたま、現代劇の「学校」シリーズでは賞は取れるものの、思ったような興行にはいたらずに、しかたなく時代劇に「寅さん」を持ってきてやりたかったように思えます。

 もともとの原作の「たそがれ清兵衛」には妻がいるのですが、妻がいると寅さんにはならないので妻は無し。マドンナの朋江のために身を粉にして人肌脱ぐも、マドンナと結ばれるわけにはいかないからTV版の様に崖から落ちて退場していただくのと同じように、早々に戊辰戦争で清兵衛は死んだことになってしまいます。

 続く、2作目の「隠し剣 鬼の爪」、3作目の「武士の一分」にしても同じことが繰り返されるだけですが、結局のところ黒沢明のような正当な武士の時代劇ということではなく。時代劇調にした家族コメディーしか撮れないのに、土台がブレるので何を撮りたいのか良くわからないところがあるように思えます。
 

 しかし、平侍の下級層の武士の家庭をサラリーマンと捉えて置き換えるなら、ソコにはうまく時代劇に置き換えた家族の物語が描かれており。
 武士の困窮生活の一旦と、藩の無茶な命令に突き動かされる運命をからめた姿は深みを増して観客を惹きつけていき飽きさせるところがありません。まさに一級のエンターテイメント作品です。



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