あかでやみぬる月の光を

本との出会いを徒然なるままに綴る。

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四十七人の刺客 (下)

四 十 七 人 の 刺 客 (下)
著者:池宮彰一郎


 大津を早立ちした奥田孫太夫は、逢坂山を越えると追分で東海道をそれて山科を南に下った。三宝院の門前を過ぎ、札の辻で西へ向かう。山科沿いに小半道歩けば宇治川に出る。まもなく伏見の船着場である。
 右手に見える伏見の廃れた町跡は、茫々と枯れ草のなびく荒地となって、あわれというもおろかな眺めであった。
 ――策略でもあろうが、大石殿が伏見に執着するのは、この廃れた町の眺めに赤穂を失った寂しさを噛み締めておられるのではなかろうか。
 孫太夫は、言い知れぬ感慨に、ふとそう思った。

 孫太夫は伏見の色里の一つ笹屋に入ると、主人・清八の案内で奥庭の農家造りの離れ家に通った。
「おお、孫どのか。ようみえられた。疲れたであろう、これへ……。」
上がりはなの囲炉裏端で内蔵助は、町家の若女房風のキリリとした身じまいの夕霧の給仕で夕餉を食していた。孫太夫は夕餉の相伴を辞去すると、内蔵助は変事を飛躍させた。
「飛脚便で知ったが、屋敷替えは本決まりとなったそうだな。」
「まんまと策が当りました。ところも本所、申し分ありませぬ。楠・孔明もはだしの計略、これで吉良の首はとったも同然と、江戸組一同、勇み立っております。」
「まだ、早い……。」
 内蔵助は、苦い顔で言った。
「これまではほんの初手、戦はこれからだ、まだまだ先は長い……。」
 孫太夫は言いよどんだが、思い切って問いかけた。
「それで……。結着はいつ頃になりましょうか。」
 内蔵助は、思案顔でゆっくりと答えた。
「考えてはいるのだ。早くて来年の冬か、いやもう一、二年かかるか……。相手は十五万石の大大名、それに天下を動かす後ろ盾……。加えて色部は名だたる知恵者だ。」
 内蔵助は、鋭い目で孫太夫を見返った。
「奴め、頼む吉良の屋敷を奪われて、どのような対策を立てた。」
「は……。本所の屋敷、使い勝手が悪しきため少々手入れが致したしと届け出で……。普請作事の間、老齢の隠居夫婦は騒音堪えがたきためと唱え、上杉家麻布中屋敷に引き取っております。」
 内蔵助は苦笑し
「やりおるの、色部め……。上杉家の羽交いの中に抱え込み、時を稼いでこちらの出方をうかがうとみた。さてそうなると……。」
 内蔵助はうって変わった厳しい顔で呟いた。
「何か、手を打たずばなるまいな。」



 大石内蔵助と色部安長の虚虚実実の駆け引きの攻防が繰り広げられる中、ついにその時。
 ――元禄十五年十二月十四日、難攻不落の砦と化した吉良屋敷にいよいよ決戦の幕が上がった。
 



 さて、その昔は年末になれば判子を付いたようにTV番組は元禄赤穂事件を元にした”忠臣蔵”が必ず放送され。その中では必ず討ち入り当日は”火事装束”に身を包み”山鹿流 陣太鼓”を打ち鳴らしてイザ出陣!!
 って言うのがお約束のパターンでしたが……。

 ”火事装束も山鹿流陣太鼓も無かった”
 ましてや、小雪が降りしきる中を隊伍を組んで突き進むお決まりのシーンさえも……。
 ドラマの演出と知ったのは、NHKの番組”歴史への招待”(1978年12月14日 吉良邸討入り )であったか、”クイズ面白ゼミナール”(1987年12月13日 日本人の好きなもの~忠臣蔵~)だったのか。
 もう遥か昔のことで吉良上野介の遺恨に覚えが無いように私の記憶も定かではないですが、大忠臣蔵(1971年のテレビドラマ) 主演:三船敏郎。 赤穂浪士 (テレビドラマ 1979年)主演:萬屋錦之介。  などを視て育った身としては、それはそれはかなりの衝撃。
 その昔は、今ほど正当な評価がされておらずに、通り一遍等で内蔵助は忠義の士で上野介は貪る大悪人でその先の話は無かったのですよね。

 それはさておき、いよいよ最後の見せ場となる。吉良邸の討ち入りへと全ての物語が集約されていきます。
 本作では攻城戦の様相を呈しており、苛烈さでは一、二を争うものかもしれません。しかし、忠臣蔵作品におけるカタルシスは忠義の士が切腹して果てて終ることにあるのだとつくづく思います。

 もしも、何らかの歴史の歯車がくるって四十七士が大赦されたとするのなら、大津事件の向畑治三郎、北賀市市太郎の両氏のように失意の内に不遇の晩年を送る運命に翻弄され、今のような人口に膾炙した物語にはなるようなことには、ならなかったのかもしれません。


小説・歴史・日本・ドラマ

四十七人の刺客〈下〉 (角川文庫)四十七人の刺客〈下〉 (角川文庫)
(2004/04)
池宮 彰一郎

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