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本との出会いを徒然なるままに綴る。

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四十七人の刺客 (上)

四 十 七 人 の 刺 客 (上)
著者:池宮彰一郎



 昼過ぎ、大石内蔵助の一行が、藤沢宿の外れ遊行寺の坂下にさしかかるころには、さわやかな日和だった。
 元禄十五年十月二十二日。
 この年は閏年のため八月が二度あった。それでも新暦では十二月初旬に当たる。秋日和とはいうものの、風は初冬の冷たさを伝えていた。
 東海道を江戸に下ると、道は遊行寺坂手前で左に曲がる。直進すれば片瀬、江ノ島に向かう。その曲がりの茶店で一行を待ち受けていた浪人態の侍が、つと店を出て目礼すると先に立って歩き出した。江戸組みの富森助右衛門であった。
 一行は内蔵助の他、吉田忠左衛門、小野寺十内、不和数右衛門、それに若手の吉田沢右衛門、小野寺幸右衛門、足軽の寺坂吉右衛門の六名であった。

 道は刈田の中を通り過ぎ、大仏切通しまでの長い坂道にさしかかった。前方から切り出した丸太を積んだ車と行き会いながら、内蔵助は身近の小野寺十内にふと心に読んだ歌を囁きかける。
「木を積める、くるまのきたれば、かた寄りて……、通さしめつつ……、山みちのぼる……。とは、どうかな。」
 歌道に堪能な十内は口の中で繰り返してみて、にこりと頷いてみせる。
「ご家老は、かまえぬ時の方がよい歌を詠まれますな」
「歌は作るものではない、ふと心に浮ぶものだと言うおぬしの持論が、この頃ようやくわかりかけてきたところだ。」
 坂道に足を繰り出しながら、内蔵助は続けた。
「物事と言うのは、慣れて呼吸が分かる頃に終わりを迎えるようだ。年内、後ふた月あまり、歌を詠む余裕があるか何ほどあるか……。ちと心許ないな。」
「やはり……。年内とお考えですか」
 十内はうって変わった緊張の色で囁いた。
「のう、十内よ。これは相手あっての企てだ。仕掛けるこちらも必死なら、防ぐむこうも必死……。年が変われば状況が変わる。この一年八ヶ月、はかりにはかった計略を戦に持ち込むのは年内が限度だ。」
内蔵助は眉を上げて、流れる雲脚を眺めた。



 元禄十四年(1701年)三月十四日。
 事は四つ半時(午前十一時ごろ)に起こった。播州赤穂五万三千石の藩主・浅野内匠頭長矩が、高家筆頭・四千三百石・吉良上野介義央に突然刃傷に及んだ。
 ――ここから、すべては始まる。



 今日においても、不可解極まりない浅野内匠頭の突然の乱心により、こうして多くの無辜の家臣や下々の者が迷惑を蒙ったワケですが。

 本作品ではより鮮明に、体制に挑む大石内蔵助の謀略の数々と、対する上杉家・色部安長の智謀を尽くした防ぎを対比させることで、最も対決色の濃い元禄赤穂事件を描ききることになります。
 上巻では、討ち入り二ヶ月前の模様から始まり、刃傷事件の回想を織り交ぜつつ筆が進みます。大石内蔵助はわりと好色な人物で非常に人間味のある描き方を見せつつも、方や伏見などでの放蕩の擬態っぷりなど謀略の限りを尽くす大悪人の様相もたっぷりと見せます。


 それにしても、浅野内匠頭の人物はいったいなんだったのかと……。
 現代でも続く時折見せる凶悪事件など、則を平気で越える人は偶に突然現れては消えていく、時代に咲いた仇花のようなものなのかもしれませんが。
 惜しむらくはそういう才能は新しい発見などで使っていただければ、人類の大きな進歩と発展に寄与できるのですが、単純に何かが欠落しているだけかもしれませんし。


 ――他山の石を以って、玉を攻むべしか。




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最新オリジナルアルバム[Stolen from strangers](2007)、[The Miraculous Mandarin](舞台:中国の不思議な役人)(2009)から、デビューアルバム[JUNE NIGHT LOVE](1983)まで、ソロでの作品からサウンドトラック、プロデュース作品、CM音楽として提供したものなど、今までの作品の中から21タイトル(09年10月現在)・各4~6曲ずつ全122曲を試聴できます。既に入手困難なアルバムもラインナップ。各曲フルレングスで聴くことができ、三宅 純の世界をPC上で体感できるパーツです。 TDKカセットテープ ADスプレンダーCM曲。アルバムjune night loveに収録されている「could it be real?」がお勧め。

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